大橋直久「また後で電話します」

ベテランは、これと同じ反論が出たら、どう対処するか。

それは、この相手の、逆手をとることだ。

「ありがとうございます。

わざわざお電話をいただけるなんて、……私、株式会社ブローニュのものですが、電話番号はご記憶していただいておられますか」

「……」

「ひょっとしたらお忘れいただいたのかもしれません。お客様は、お仕事柄いろんな方々とお会いになられるようですし、また、いつもご多忙のようにお見受けいたしますが……」

「……」

これでよいのだ。

単純に断わる非常識な相手は、以前にどんなセールスマンが来訪したかなど全然記憶していないのが普通だからだ。

お客様は一瞬たじろぐが、これまで惰性で口にしていた、「あとで電話する」という断わり文句が役に立たないことに自分で目ざめ、「オヤッ」と思いながらも、

「そういつも忙しいわけではないんだが……」と別の言葉を発するようになる。

こうなれば、あとはこちらのペースだ。

「念のために、私の名刺を差し上げます。私、株式会社ブローニュの石井です。電話番号は●番です。失礼ですが、いつお電話をいただけるでしょうか」

大橋直久〜就活生・新社会人のためのマナー講座