大橋直久「身分社会の国」

問題はこの紙一重でやってきた機会を、平凡なわれわれがどんな工夫をしてうまく自分のものにするかである。

たとえば、誰かに紹介されて、初対面の人にセールスにいったとする。

「ごめん下さい。私はこういうものでございます」

といって名刺を出すのが、日本での普通の光景である。

これが凡夫たるゆえんなのである。

日本は依然として身分社会の国であるから、自分の名前よりも先に、名刺を出して自分の身分を相手に信用してもらうことが大切なのである。

そういう悪習から抜けきらないから、日本人は社会人になるとみんな親からつけてもらった名前を忘れて「こういう者」という名前になる。

肝心なのは、自分の名前ぐらいは自分の言葉ではっきり名乗るくらいの自信を持てということである。

「ごめん下さい。

私、中央生命の凸山凹太郎と申します。

中曽根康弘さんからご紹介をいただいてまいりました」

といってから、確認のしるしとして、ゆっくり丁重に名刺を渡すのである。

大橋直久〜就活生・新社会人のためのマナー講座